IPCC(気候変動に関する政府間パネル)とは その7
〜私たちにできること&最近の動き〜
IPCCインベントリータスクフォース 共同議長
公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
上席研究員 / TSUシニアアドバイザー
田邉 清人(たなべ きよと)様
公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
IPCC - Intergovernmental Panel on Climate Change
1997年に採択された京都議定書以来18年ぶりの国際的枠組みであるパリ協定をはじめ、気候変動に関わる国際条約や政策を検討する際には、IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change(気候変動に関する政府間パネル)の評価レポートが科学的根拠として用いられます。
世界で最も信頼できると言われるIPCCのレポートはどのように作られているのか、IPCCインベントリータスクフォースの共同議長をされている田邉清人様にお話を伺いました。
今回のインタビューは環境ソリューション室 三戸が担当いたします。
【その7】私たちにできること&最近の動き
1)私たちにできること
私が以前、大学で環境に関する講義をした時に、学生にアンケートをしたのですが、日本は十分やっている、日本人は地球に優しい国民だと思っている学生が大勢でした。身近なところではではうちの親も、同様な答えでした。
確かに、僕にもそういう気持ちはあるんですね。
ただ、別の資料で、日本の人口と日本の排出量から1人当たりのCO2排出量を計算したら、日本は世界平均の何倍もCO2を出しながら生活している国なんですね。
となると、やっぱり日本国民って、地球に優しくないんだろうなと、省エネ、省エネといって、省エネ機器への買い替えや買い足しは促していますが、夜もこうこうと電気がついていますし、エアコンガンガンつけていますし、結果として使う電力は、ちっとも減っていないように感じます。僕の個人の意見ですけども、日本人は地球環境に優しい国民だっていうところを、ちょっともう一回見直したいなと思っているのですが、どう思われますか。
そうですね。僕は、家庭や事業所での省エネなど日本人はそんなに悪いほうじゃないと思っています。しかし、電気の元になっているエネルギー比率の中で、いわゆる再生エネルギーの割合がまだまだ欧米に比べれば低いので、その改善余地は大きいだろうと思います。これは、一人一人の意識ですぐ変えられる問題じゃないですが、政治を動かす国民的なパワーという意味では、日本人の取り組みは例えば欧州に比べちょっと見劣りするのかなということはありますね。
われわれが温暖化防止で、例えば、各個人でできることをしたいと思ったら、まず、何をしたらいいと思われますか。
これはかなり個人的な意見になりますが、私の仕事に絡めて言うと、まず、自分自身が日常生活でどれぐらい温暖化のガスを出しているかを「把握する」、そういうところから取り組むと、意識が変わってくるんじゃないかなっていう気がします。
私は飛行機移動が多いのでカーボンフットプリントとしては劣等生ですが、自分がどれぐらい出しているかが分かると、こういうふうに生活を変えたら、どう変わるんだろうという興味にもつながってくると思うんです。そうすると、やる気が出てくるというか、それが行動につながってくると思うので、まず、自分がどれだけ出しているかというのを計算してみるといいんじゃないですかね。
お金にしても、自分がどれだけ使っているのか分からない状態だと、なかなか節約できないじゃないですか。
太陽光パネルを付けると、発電量・使用電力量・売電量がわかるようになって、電気を消すようになる、というのにも近いですね。個人の温暖化ガス排出量の計算は、どうしたらいいのか、教えて頂けませんか。
「計算してみるといいんじゃないですかね」なんて簡単に言ってしまいましたが、では一体どうやって計算すればいいのか、何も手掛かりがないとわからないですよね。
世の中には、計算の手掛かりとなる情報・データがいろいろあるので、インターネットで検索するなどして自分にあった計算ツールを探してみるとよいかもしれません。
ほんの一例ですが、例えば、環境省が推進している「家庭エコ診断制度」を利用することができます。
また、東京都地球温暖化防止活動推進センターは、スマートフォン用の環境家計簿アプリを無料で提供しています。これを使うと、家庭で使っている電気やガスなどに由来するCO2排出量が計算できるようです。
また、電車の乗り換え検索サービスの中には、運賃などの情報のほか、その電車に乗ることによるCO2排出量を計算してくれるものもあるようです。
海外旅行に行くときは、飛行機が出すCO2の量が気になるかもしれません。英語ですが、国際民間航空機関(ICAO)のウェブサイトで、その計算ができます。
国際民間航空機関(ICAO)/ Carbon Emissions Calculator
こういうツールを使うとCO2排出量が計算できますが、一つ注意していただきたいことがあります。それは、計算をする前に、どこまでが自分の責任と考えるのか自問してみるのが大切だ、ということです。
例えば、バスに乗るときを考えてみましょう。バスが走ることによって出るCO2の責任は、乗った人全員が乗った距離に応じて均等に分担すべきだ、という考え方があります。一方、自分一人が乗っても乗らなくても、バスは走ってCO2を出すんだから、自分が乗ったせいでCO2が増えるわけではない。それにバスの会社はバス乗客からお金をとって利益を得ているんだから、バスが出すCO2はバス会社が責任を持つべきで、自分の責任ではない。だからバス利用による自分のCO2排出量はほぼゼロだ、という考え方もあるでしょう。ほかの考え方もあるかもしれません。そして、どの考え方が絶対に正しい、ということはありません。ただ、こうした考え方の違いで、自分が出す(自分が責任を持っている)CO2排出量の計算は違ってきます。
確かにCO2排出の責任境界は難しいですよね。責任境界の正解はないので、これを議論し始めたら、キリがありません。個人としてできる事は限られているかもしれませんが、できる事をできるだけ多くするか、何もしないのかは個人の判断です。
なにも考えずに生活するのではなく、自分が出しているCO2の量を把握して考えることが、行動のスタートになる、という点では、我々の行動には必ずCO2が排出されるという事実を頭の片隅に置いていくことが行動の原点だと思います。
そうすれば、日常のちょっとしたことでも、例えば交通手段をどうするか考える時に温暖化の事を考えて決めるようになるのかなと思います。
2)最近の動き「再生可能エネルギーへの期待」
日本の総排出量13億トンを単純に1億2700万人で割っただけなんですけど、日本人は1人当たりCO2を年間10トンぐらい排出しているんです。「2050年までに温室効果ガス排出量8割削減」というのが日本の計画ですので、2050年にはCO2排出量を1人2トンにしないといけないことになります。単純に、今のような化石燃料主体でいけば、ですが。
エネルギーを8割削ることは絶対に無理。でも、電源を再生可能エネルギーに変えちゃえば、そこは使ってもいいことになるんですね。
そうですね、再生可能エネルギーへの転換については、今は産油国が再生エネルギーに取り組んでいる時代ですから、そういう趨勢はもう止まらないんじゃないですかね。
イギリスでガソリン車は2040年から駄目ですという政策を発表しましたが、ものすごいインパクトがありましたね。
そうですね。でも、あれぐらいの変革になると、自動車の技術だけじゃなくて、インフラから変えていかなくてはならないですから、簡単な話ではないと思います。
また、ガソリン車禁止という話は、温暖化対策という観点からはいいと思うのですが、他の視点も考慮する必要はないのかな、という気もしています。
私は車に詳しくはないですが、車って、単に移動するだけの道具じゃない面もありますよね。車を運転する事が趣味だ、という人の中には、ガソリン車独特の味わいが好きだとか、そういう、環境問題とは別の側面をとても大事に思う人もいるんじゃないでしょうか。そういう人にとっては、つらい話だろうな、と思うわけです。考えすぎかもしれませんが。
しかし、一方で、やるんだったらこれぐらい思い切ったことをやらなきゃいけなくて、政府が強烈にこういう方向に行くんだというメッセージを発しないと、プレーヤーである企業とか産業界が本気になって動かないだろうなとは思うので、そういう意味では画期的だとは思うんですけど。ちょっと複雑なところですね。
それと、アメリカがパリ協定離脱を宣言しました。たしか・・すぐには離脱できないんですよね。
そうです。パリ協定に定められている離脱の手続きによれば、完全に離脱できるのは早くても協定発効(2016年11月)から4年後、つまり2020年11月です。それまでは、アメリカはパリ協定下での義務もあります。その義務を履行するかどうかは、また別の話になってしまいますが、やっぱり義務を履行しないと、それはそれで国際的な信義を失うことになりますから・・・。
2016年のマラケシュで開催された締約国会議COP22がちょうどアメリカの大統領選の時で、パリ協定離脱を公約していたトランプ政権誕生のニュースは、会場に、ものすごい沈滞ムードをもたらしました。ただ、それでちょっといい面もあったのは、アメリカの各州がこれまで以上に積極的に発言するようになってきた事です。
アメリカの州や都市が同盟を結んで、「We are still in(パリ協定)」宣言をしていましたね。カリフォルニアとか、大きい州が結構参加していたので、アメリカ人口の4割ぐらいはカバーするぐらいの人たちが、パリ協定を守りますみたいな動きがありました。
対象(数) | 名前 | 人口(万人) |
---|---|---|
州(9) | カリフォルニア コネチカット ハワイ ニューヨーク ノースカロライナ オレゴン ロードアイランド ヴァージニア ワシントン |
3725 357 136 1938 954 383 105 800 672 |
都市(254) | シカゴ ダラス ヒューストン ニューヨーク ロサンゼルス フィラデルフィア フェニックス サンアントニオ など254の郡と市 |
270 123 210 818 379 157 145 144 |
大学(335) | ハーバード大学 マサチューセッツ工科大学 など335の大学 |
|
企業(1846) | ナイキ アップル マクドナルド など1846の企業 |
https://www.wearestillin.com/ より筆者が作成
確かにその動きは始まっています。気候変動枠組条約というのはあくまでも、国と国との条約なので、メインプレーヤーはずっと国だったのですが、最近になって国以外のプレーヤーの役割も重要だという認識がものすごく高まっています。
2015年のCOP21におけるパリ協定に関する決議の中で、「Non-State Actors」あるいは「Non-Party Stakeholders」という表現で、地方自治体や企業といった国以外のプレーヤーの役割に言及し、それを重視するまでになっています。
そういう動きが盛り上がってきたところに、トランプ政権のおかげで「Non-State Actors」が盛り上がりを見せるようになったので、そういう意味では、期せずしていい面もあったといえます。
現在は「Non-State Actors」のような考え方で、地方自治体や個人や企業レベルで、IPCCに参加する方法というのはないんでしょうか。参加は無理であっても、基金への寄付ができるような応援、できればふるさと納税みたいな仕組みとか・・・。
そのお話は、まさしくタイムリーな話でもあるんですけど。アメリカはどの国連機関でも最大の拠出国なので、実際、アメリカの財政的支援が減ると苦しいんです。特に、IPCCの活動基金への拠出は義務ではなくて、ボランタリーベースの寄付なので、各国が自由に設定できます。
実際に今回、IPCCとGCF(Green Climate Fund)への活動資金拠出は停止っていう話が出たはずです。少なくとも今のところアメリカからの基金は入ってきてないですね。
それで、IPCCでは支出を見直す一方で収入源の多様化という話を、今しているところです。クラウドファンディングとかも、実現するかどうかは別として、アイデアとしては出てきたりしています。
どうもありがとうございました。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回はとうとう最終回です。
田邊様のご経歴や、温暖化防止と関わるようになったきっかけなどについて、お伺いします。