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資源リスク評価と金属資源のクリティカリティ その1
〜戦略的都市鉱山研究拠点『SURE』〜

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
安全科学研究部門
社会とLCA研究グループ研究員
畑山 博樹(はたやま ひろき)様

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
社会とLCA研究グループ ホームページ
戦略的都市鉱山研究拠点「SURE」

「クリティカルメタル」という言葉をご存じですか。
産業を支えている鉱物資源の安定供給確保やリサイクルなどの資源問題を考える上で、世界的に最近よく使われている言葉です。レアメタルと似た印象のある言葉ですが、「クリティカルメタル」とはどのようなものなのでしょうか。

今回のインタビューは、「資源リスク評価と金属資源のクリティカリティ」について研究をされている畑山博樹様に、資源リスクを取り巻く最近の動向などの背景を含めお伺いしました。

【その1】戦略的都市鉱山研究拠点『SURE』

今回は、よろしくお願いします。
まず、畑山さんが研究されていることから教えて下さい。

では、最初に産業技術総合研究所(以下 産総研)についてご説明します。

【1】戦略的都市鉱山研究拠点『SURE』について

●『SURE』とは

産総研では、『戦略的都市鉱山研究拠点(SURE:Strategic Urban Mining Research Base)』と名づけた研究拠点を2013年に設置しました。ここでは、金属資源の安定供給を目指した資源循環社会の実現とその産業化を目標に、我が国の産業に必要不可欠な金属を「戦略メタル」と位置づけて、将来的に資源循環技術を確立すべき金属の予測や、資源循環の促進に向けた技術開発と資源配慮設計(DfR: Design for Resources)といった研究を進めています。


掲載ページ https://unit.aist.go.jp/emtech-ri/sure/

SUREでは、産総研の環境管理研究部門が中心となり、私の所属する安全科学研究部門をはじめとして様々な部門が横断的に連携して都市鉱山開発に対する取り組みを行なっています。

「戦略的」都市鉱山について、詳しく教えていただけませんか。

「戦略的都市鉱山」とは、将来金属資源を回収しやすいように都市鉱山自体を戦略的に築いていくイメージです。「できてしまっている都市鉱山から、どうやって金属を回収しようか‥‥」を考えるのではない、という意味で「戦略的」なのです。

循環型社会の構築には、資源循環における全てのパートのステークホルダーが連携して取り組まなくてはならないと考えています。材料開発、製品設計、使用済み製品からの資源回収といったそれぞれのパートの研究に強みを持つ部門が産総研にはありますから、戦略的都市鉱山を構築するにはどうしたらよいかを『SURE』という連携組織の下に集って研究しているわけです。SUREの設立は、産総研内の分野間連携研究プロジェクトが基となっており、下図のような概念で進められていました。

資源を投入して作られた様々な製品は、我々の身の回りで一定期間使用された後、捨てられます。この使用済み製品を回収するのがリサイクルの第一歩です。回収した製品中の金属をリサイクルするためには、まずは解体・粉砕によって金属やプラスチックを選り分ける「物理選別」と呼ばれるプロセスにかけられます。場合によってはさらに精緻に物理選別され、その後製錬工程を経て、原料として製品製造に利用されます。
この流れは、“製造〜使用”を動脈、“使用済み製品の回収〜原料化”までを静脈に例えられる事もありますが、金属資源循環は動脈、静脈をグルグル回す感じなんです。

『SURE』では、都市鉱山と言っても静脈側だけの話をするのではなくて、動脈周りを含めた全ての資源循環パートについて、様々な研究部門の間で成果をバトンパスし、システム全体を評価していこうという組織です。

いろいろな部門が連携するのが、重要なのでしょうか。

いろいろな部門は、それぞれ得意分野が違います。

図に 「1-現行都市鉱山のリサイクルポテンシャル評価と戦略メタル回収品目の選定」というのがありますが、こちらは、主に私が所属している安全科学研究部門が担当していて、どの金属あるいは製品を対象とした資源循環を進めるべきかを検討するパートになります。
都市鉱山から資源を安定供給するには、あれもこれもリサイクルできれば良いのですけれど、実際は効果的なところにターゲットを絞って進める必要があります。そこで、各金属の今後の需要と使用済み製品からの回収ポテンシャルを評価し、何を対象とすべきかを検討します。

続く「2-戦略メタル回収品目の資源価値毎製品選別と解体プロセスの自動化」は、先ほど申し上げた「物理選別」を担当しているパートです。
例えばコンピュータのハードディスクを解体・選別しようとすると、強力なレアアース磁石が筐体にくっついてなかなか取れないんですね。そこをいかに効果的に磁石を回収するか……など、廃製品を資源価値別に自動で選り分けたり、様々な金属を個別に選別する技術を開発しています。

次の「3-中間処理-製品処理統合プロセスの開発」は、物理処理と化学処理の最適化を検討しており、この2)と3)は環境管理研究部門が担当しています。

一方で、リサイクルを進めるために、あらかじめリサイクルしやすいような製品の作り方をしておく易解体設計(DfD:Design for Disassembly)という考え方があります。例えば、部品の識別や取り外しが簡単にできる製品設計です。これを発展させるのが下段右の「生産ビジョン」にある「4-資源循環促進のための過不足ない製品設計」というパートで、こちらは製造技術研究部門が主体となっています。

資源リスクの高い金属に対しては、リサイクルの他に代替材料の開発も重要視されています。SUREにおいても、構造材料研究部門や無機機能材料研究部門が中心となって材料開発に取り組んでいます。

私が所属している安全科学研究部門の中では、社会とLCA(*1)研究グループが「1-現行都市鉱山のリサイクルポテンシャル評価と戦略メタル回収品目の選定」に取り組んでいます。元々マテリアルフロー分析などによる金属資源循環の解析を専門としている私が中心となり、資源循環の促進による環境負荷の低減効果を評価することを得意とするグループメンバーとともに『SURE』のプロジェクトに取り組んでいます。

*1 LCA:ライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment)

【2】『SUREコンソーシアム』について

産総研には、「技術を社会へ」という理念がありまして、研究成果を社会で使っていただき、社会に役立つことが必要とされています。その実現を加速させるため、昨年、『SUREコンソーシアム』を立ち上げました。

『SURE』は、産総研の研究者が集まって、産総研の研究成果を融合させるための組織です。『SUREコンソーシアム』は、都市鉱山やリサイクル、ひいては金属資源の利用に関わりのある企業と連携し、産総研の戦略的都市鉱山思想の早期社会導入を目指した企業連携組織として誕生しました。


出典:SUREコンソーシアムホームページ

組織の概念は上図のようになっています。
「フォーラム」はサプライチェーンの代表企業を会員として製錬や電機・自動車などの製品のメーカー等、いわゆる上流側の企業と研究会を立ち上げて戦略的都市鉱山の実現に向けた協議を行っています。

「クラブ」の会員はどちらかというとリサイクル関連業者です。いろいろな金属のリサイクルに取り組まれている会社の方に加わっていただいて、技術や実態の情報を提供していただきながら、産総研の技術支援やコンソーシアムの協議内容や情報の開示共有をしています。
さらにオブザーバーとしてリサーチ・コンサル企業や自治体、政府機関、業界団体や学識者の方々に参加していただいています。

自治体もメンバーなのですね。

例えば小型家電リサイクル法にみられるように、使用済み製品を家庭から回収するところでは自治体の役割は大きいので、一緒に議論してもらいたいということで加わっていただいています。
また、政府系の機関も重要なメンバーですね。経済産業省のリサイクル推進課のほかにNEDO、JOGMECなど、産業政策・技術系の方が多いですね。
その他、有識者として大学の先生方にもアドバイザーという形で参加していただいています。

こういったいろいろな企業や機関の方に入っていただいて、みんなで日本の資源循環、日本の都市鉱山を戦略的に考えていく体制を整えています。

このコンソーシアムは昨年10月から活動をはじめたところです。例えば製品メーカーの会員は製品製造に関する知見をお持ちなので、現状の問題解決法や都市鉱山の戦略的構築に向けた将来指向の議論を進めています。また、静脈側の会員からは現場で必要とされている新技術のニーズを汲み取り、実際に共同して技術開発を進めていける活動体制になっています。

『SUREコンソーシアム』は弊社も参加させていただいているのですが、具体的にはどのような活動をされているのか、教えて下さい。

そうですね、『SUREコンソーシアム』のなかでは課題プログラムというものが動いていて、この中では産総研の研究員と会員の間である一つのテーマを掘り下げていきます。
例えば”資源リスク”というテーマに興味のある会員に集まっていただいて、「日本の資源リスクというのはどう考えていくべきなのか?」「資源リスクの低減のために何をすべきか?」といった検討を進めます。

課題プログラムの成果のイメージですが、例えば“物理選別”をテーマとしたプログラムでは、製品に含まれる金属に関する情報のデータベース化を目指しています。リサイクル業者としては、「使用済み製品の解体、選別を頑張ったが、目当ての金属はあまり入っていなかった」となると非効率なわけです。
そこで、電機メーカーなど上流に位置するプログラム参加会員から製品中の金属に関する情報を提供してもらい、「この製品にはこの金属が多めに入っています」という情報をひとまず産総研に集積します。そしてその情報は、プログラム参加会員の間でのみ、データベース公開あるいは秘匿情報の配布といった形式で共有します。
そうすることで、産総研はそのデータベースを用いた研究・解析が出来ますし、データを提供いただいたプログラム参加会員は、データベースの情報や産総研による解析結果を、より効率的な資源循環につながる製品設計やリサイクルに活用できると期待されます。このように、プログラム参加会員と産総研が共同で成果を上げて、双方にメリットのある形で還元できる仕組みを作っていきたいと考えています。

将来的には、何らかの形で製品メーカーから情報を提供して頂けるシステムを構築したいと考えています。

今の話は、複数の企業と産総研が共通の課題を共同で作業する形でしたが、産総研と一会員が個別の課題について、1対1で連携するプログラムもSUREコンソーシアムの中で実施可能です。現在、このような共通・個別の「課題プログラム」が9プログラム立ち上がっています。

これからが楽しみですね。

そうですね。『SUREコンソーシアム』の立ち上げが昨年の年末だったので、まだまだこれからという感じですね。各プログラムも動き出したばかりで、「このプログラムではこういうことをやりたいです」という趣旨を産総研から会員の皆様にご説明して、ご理解いただいているという段階ですね。

『SUREコンソーシアム』のような、部門・領域横断型のプロジェクトは、素敵だなと思うのですが、産総研ではよくあるのですか。

産総研内部での横断型の連携は、多数あります。このように多様な研究分野の連携が容易に行えるのも産総研の強みと考えています。また、多くの企業を巻き込んでの活動も推進してはいますが、Win-Winの関係を築いていくのには、克服すべき課題も少なくありません。

このコンソーシアムは会員数も多いし、メンバーも有力な企業さんが多くて、すごいですね。

そうですね。おそらくこれだけ多くのステークホルダーが集まって都市鉱山という一つのテーマに打ち込んでいるというのは、世界的にもなかなかないと思います。海外ではすでに、○○版SURE(○○は国名)を目指した活動が始まっているという情報も耳にします。

現在は、SURE代表、SUREコンソーシアム会長の大木達也(環境管理研究部門)が積極的に広報をして、経済産業省やNEDOなどとも情報交換をして、SUREの戦略的都市鉱山思想の実現を目指しています。ある意味、日本で最大規模の都市鉱山系コンソーシアムを持つことができたんですね。日本の資源循環の代表的モデルとして、政府機関のご理解も進んでいると聞いています。

期待値が大きいということですね。


ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回は、「畑山さまの経歴とマテリアルフロー分析」についてお話しをお伺いしています。


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