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e.コラム

桜と地球温暖化を考える

異動に伴い神奈川県逗子市に越してきてから丁度一年が経つ。逗子周辺は逗子海岸や森戸海岸または鷹取山や大楠山など、自然を満喫できる多くの場所に恵まれているが、特にこの時期は自宅から会社へ向かう道のソメイヨシノの桜並木は見応えがある。

この辺りの地名の由来のルーツは想像に難くない。ここら一帯は「桜山」と呼ばれている。
江戸時代の後期には逗子市は、逗子、桜山、沼間、小坪などの行政村に分割されていたようなので、その時代には既にこの地域に桜の木が生育していたのだろう。

調べてみると、江戸時代の地誌である「三浦古尋録」には以下のような記述がある。
「桜山村、〔中略〕むかしここに桜林あり、勅命により、夢窓国師京都へ上らせ給うとき、ここの桜を持せられ芳野へ植えさせ給う」。

簡単に説明すると、鎌倉幕府が滅亡して夢窓疎石という僧が上洛するときに、当時のブームだった吉野山への献木をするために桜山の桜を持って行った、ということである。つまり、江戸時代よりもっと昔の鎌倉時代に、既に現在「桜山」と呼ばれている地域にヤマザクラが生育していたことを物語っている。それが近代又は現代になってソメイヨシノに取って代わったのである。ソメイヨシノの命名の由来を知っていると何とも面白い話である。

さて、本エコジャーナルのe.コラムは(基本的には)環境がテーマである。
今回は、この桜を地球温暖化と結びつけて考えてみたい。

桜の開花と地球温暖化との因果関係は複数の専門家によって研究が行われており、気象庁のホームページでもソメイヨシノの開花日の変化が報告されている。


気象庁ホームページ 「さくらの開花日の変化」より
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本報告によると、いわゆる「桜前線」は北上する傾向にあり、過去と比較して開花の時期が少しずつ早まってきている。この大きな原因が「地球温暖化である可能性が高い」という訳である。

調べたウンチクを家に帰って嫁に得意げに話してみる。
「桜の花芽は夏至を過ぎたあたりから休眠物質を作りはじめて、厳しい冬の季節に備えるんだって。冬になって寒くなると休眠物質が徐々に減っていき休眠打破となり、開花へ向けて準備を始める。そして春になり気温が上昇すると一斉に開花となるんだけど、地球温暖化が進むにつれてこの開花の時期が早まっているらしいんだよ」

「ふーん」「へー」と嫁はテレビに向いたままである。熱い講義は続く。

「それだけじゃない。冬の期間に十分に低温に晒されないと休眠打破が上手く行われなくて、逆に開花が遅れたりする場合もあるみたいなんだよ。桜ひとつとっても、日本でも地球温暖化の影響が生じているというわけだ」

「それで?」と返ってくる。「それで、開花の時期が早まったり遅くなったりして何が困るの?」と言いながら、嫁はリモコンを手に取りテレビの音量を上げていく。「困る、と聞かれると困る…」と僕の声は小さくなる。

有名な話であるが、日本の桜の大半を占めるソメイヨシノは園芸品種であり、自家不和合性のため、同一固体では種子が形成されない。つまりは花が咲いても、子孫を残す目的に機能することは難しく、ほぼほぼ人の観賞目的のためだけに毎年開花を繰り返しているのである。そう考えれば、開花の時期がずれても桜の木自体に困ることは無いのでは?とも思ってしまう。

とはいえ、桜は春の季語であり続けてほしい。学校の入学式や卒業式の写真の背景が緑豊かな葉桜であると何となく物淋しいと感じてしまう。やはり桜の花であるとしっくりとくる。
また桜が春に咲かないとなると、いくつかの卒業ソングは歌詞の変更を余儀なくされる。「さくら散る」だの「さくら舞う」などと歌うものなら大変である。これはチューリップとかタンポポに置き換える必要がある。だが、語呂が悪そうなのであまりお勧めは出来ない。

桜の開花時期が秋にまで早まってしまうと一大事である。「秋に咲く桜だから秋桜とでも呼べばいいじゃないか」などという考えは安直である。コスモスの和名が「秋桜」で既に定着している。桜とコスモスでは植物分類体系からして全然違う。

おそらく地球温暖化ひいては気候変動が進むと、桜の開花時期が変わるどころか、開花そのものが起こらなくなる可能性もあるだろう。

桜が温度変化に敏感な品種であることは既に述べた。今後、猛暑や厳寒などの気候変動により、桜に何らかの異常が生じても驚きはしない。この場合、ソメイヨシノの観賞用の街路樹、公園樹としての立場は危うくなるだろう。逗子の桜山からも桜が消えるかもしれない。これではもう「桜山」とは呼べない。春の出勤時の楽しみも無くなってしまう。


この記事は
公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
森田 が担当しました

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