生まれ変わる焼却灰(溶融スラグについて)
エコジャーナル読者の皆さん、皆さんが毎日捨てている家庭ごみが、貴重な資源として再利用されているということをご存知でしょうか?都市ごみ(あるいは都市ごみの焼却灰)を高温で溶融して製造する「溶融スラグ」は路盤材などの土木資材として、皆さんの身近な所で使用されています。ここでは、「路盤材とは」「溶融スラグについて」「溶融スラグのJIS規格」「溶融スラグの活用方法」について、説明していきます。
1. 路盤材とは
アスファルト舗装道路が、どのような構造になっているのか、代表的なものを図1に示しました。自動車や大型のトラックが通行しても、十分に支えられる強度を保つには、地盤がしっかりとしていなければなりません。そのため、複数の層を形成して、強度、耐久性を高める必要があります。
図1の上層、下層路盤を合わせて路盤と呼び、砕石や溶融スラグが「路盤材」として使用されます。この層は、上から伝達された荷重を、下に分散させて伝える役割を持ちます。路盤には、一般的に40mmサイズの砕石が用いられています。この砕石ですが、路盤材としての品質をクリアすれば、溶融スラグも利用することが可能です。また、路盤だけでなく、道路の表層部分にも、より粒度の細かい砕石が、アスファルトの混合物として利用されています。平坦ですべりにくく、より快適な走行を確保する重要な役割です。
図1:一般的なアスファルト舗装の断面図
2. 溶融スラグとは
「溶融スラグ」とは、家庭ごみ等の一般廃棄物や下水道汚泥の焼却灰等を1,200℃以上の高温で溶融した後、冷却、固化したものを指します。冷却方法により、徐冷スラグ(写真1)、急冷スラグ(写真2)と分類され、いずれも主な成分は、SiO2、CaO、Al2O3と、天然の石に類似する組成になります。特に徐冷スラグは、強度や外観も天然石と同等のものとなります。
写真1:徐冷スラグ / 写真2:急冷スラグ(水砕スラグ)
溶融スラグの原料となる焼却灰中には、ダイオキシンや重金属などの有害物質が含まれることがありますが、溶融スラグを製造する際には1200度という高温で溶融させるため、ダイオキシンは分解されます。また溶融により、スラグ成分と重金属とを分離できるため、重環境負荷低減を実現することができます。
この溶融スラグの安全性を明確に定め、有効利用を促進するために「JIS規格」が制定されています。
3. 溶融スラグには、JIS規格があります
JIS規格とは、日本で使用される工業用の標準規格です。この規格を満たすことは、異なる製造者の製品でも、同一規格として、問題なく一緒に利用できるという指標になります。特に、公共工事などの仕様書には、JIS規格の製品を使用する内容が盛り込まれていることがあります。
さて、溶融スラグにおけるJIS規格は2006年に制定され、用途ごとに以下の二つが規定されています。
- JIS A 5031 コンクリート用溶融スラグ骨材
- JIS A 5032 道路用溶融スラグ
ここでは、溶融スラグが最も多く使用されている道路用骨材としてのJIS規格(JIS A 5032)の概要を説明します。
■JIS A 5032の概要
(1)種類
焼却灰の高温溶融だけでなく、鉄の製造過程でも、スラグが発生します。それらは、鉄鋼スラグと呼ばれ、土木資材やセメント原料として幅広く利用されています。
溶融スラグの名称は、それら道路用鉄鋼スラグのJIS規格に準拠して制定されました。骨材の種類、サイズによって表1のように分類されます。
種類 | 記号(※1) | 用途 |
---|---|---|
単粒度溶融スラグ | SM - 5,13,20 | 加熱アスファルト混合物 |
溶融スラグ細骨材 | FM - 2.5 | 加熱アスファルト混合物 |
粒度調整溶融スラグ | MM - 25,30,40 | 上層路盤材 |
クラッシャラン溶融スラグ | CM - 20,30,40 | 上層路盤材 |
※1 アルファベットは各種類を表し、数字はスラグの最大寸法を表しています。
(2)品質
■外観
溶融スラグは堅硬で、かつ、異物、針状や扁平、鋭利な破片など、使用上有害となるものを含んではなりません。
■有害物質
溶融スラグには、有害物質の溶出量、含有量が表2のとおり定められています。基準値は、土壌汚染対策法の溶出及び含有基準と同じです。
溶出量基準 | 含有量基準 | |
---|---|---|
カドミウム | 0.01mg/L以下 | 150mg/kg以下 |
鉛 | 0.01mg/L以下 | 150mg/kg以下 |
六価クロム | 0.05mg/L以下 | 250mg/kg以下 |
ひ素 | 0.01mg/L以下 | 150mg/kg以下 | 総水銀 | 0.0005mg/L以下 | 15mg/kg以下 |
セレン | 0.01mg/L以下 | 150mg/kg以下 |
ふっ素 | 0.8mg/L以下 | 4,000mg/kg以下 |
ほう素 | 1mg/L以下 | 4,000mg/kg以下 |
■その他
この他にも、表面密度や吸水率、すりへり減量など、物理的な特性も一定以上の品質を必要とします。
これらのJIS規格は、現在は一般廃棄物及び下水道汚泥由来の溶融スラグに適応されています。これは、2006年の制定時、下水道汚泥以外の産業廃棄物由来の溶融スラグは、データの蓄積が少なかったため、JIS適用範囲に入らなかったためです。実際にはJIS規格で求められる品質基準を十分に満たした産業廃棄物由来のスラグも製造されています。
更なる循環型社会の推進のため、2011年7月に制定された「付属書2 − 道路用スラグに環境安全品質及びその検査方法を導入するための指針」(※2)などを踏まえ、現在、JIS改正の検討がスタートしたところです。
※2 「建設分野の規格への環境側面の導入に関する指針」(平成15年3月制定)の付属書
4. 溶融スラグの利用用途
(1)一般的な事例
2012年の日本全国の一般廃棄物の直接焼却量は、年間で3,399万tで、そのうち、36%にあたる1,235万tの廃棄物が溶融処理を施され、79万tの溶融スラグが製造されました。製造された溶融スラグは道路用骨材、コンクリート骨材、地盤の改良材などとして利用されています。(※3)
※3 『2013年度版 エコスラグ有効利用の現状とデータ集』
(一般社団法人日本産業機械工業会 エコスラグ利用普及委員会 2014年5月)
溶融スラグを資源として有効活用することは、同時に焼却灰の埋立て処分量を削減し、最終処分場の延命化につなげることができます。また、砕石の利用を減らす分、天然資源の使用量を削減することができ、環境負荷の低減にも貢献できます。
(2)DOWAグループにおける事例
DOWAグループでは、メルテック株式会社が焼却灰から溶融スラグを製造しています。一般廃棄物由来の焼却灰を主に、産業廃棄物由来の焼却灰も受け入れ、溶融しています。一般廃棄物由来の焼却灰に産業廃棄物由来の焼却灰が混ざるため、溶融スラグはJIS規格の適応範囲には入りませんが、品質面では、創業以来JIS規格を満たし続け、環境面、安全面からも安心して利用していただける溶融スラグです。
メルテックでは、溶融スラグを砕石用として利用するため徐冷方式を採用してきました。徐冷スラグは、水で急冷した水砕スラグとは異なり、サイズが大きく、また強度が高いという特徴があります。JIS規格ではCM-40相当の溶融スラグになります。年間で約1.9万tの溶融スラグを製造していますが、それらは小山市近隣の土木資材として路盤材(写真3)や、駐車場の敷石(写真4)として100%有効活用されており、循環型社会に貢献しています。
写真3:一般道路用路盤材 | 写真4:駐車場用砕石 |
メルテックの詳しい事業については、以前の記事にて紹介しています。ホームページと併せてご覧ください。
カタログに載らない話 2010年6月記事 焼却灰を再生骨材にリサイクルしています
【メルテック紹介ページ】
この記事は
メルテック株式会社
安富 が担当しました