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溶融スラグに迫る その3
~スラグを活用する必要性~

宮城大学 食産業学群
北辻 政文(きたつじ まさふみ)教授

宮城大学ホームページ

「スラグ」という言葉は皆さん聞いたことはあると思いますが、どうやって作られていて、どんなものなのか?
素朴な疑問を、溶融スラグの専門家の北辻教授にお伺いしました。

【その3】スラグを活用する必要性

前回、スラグの用途として、コンクリートの骨材として使われたり、漁礁ブロックとして使われたりすると伺いました。他にも用途があれば、教えてください。

石の代用

溶融スラグの用途は今後いろいろ考えられますが、自然環境保全事業への利用も可能です。近年、天然の石がなくなり、とくに玉石がないので、環境保全を行う土木工事においては入手に困っています。

天然の石が入手困難なんですか。。。石はどこにでもありそうな気がしますが、確かに、石も山を切り崩したりして採掘する資源なんですね。

例えば河川において自然環境保全事業として、蛍が住めるような石の水路を整備するなど、そのようなところにもスラグ人工石が使われています。
その他にも河川護岸工事で、生物多様性を意識した自然再生工法の材料としてコンクリート壁に代わって溶融スラグが使われています。

溶融スラグが、今後どうのように使われ方をするかと言いますと、やはり主は建設資材として使われることでしょう。それは建設工事において石材は、大量に使われるからです。

前回、溶融スラグはシリカのネットワークで重金属が含まれていても外に溶け出してこない、品質は天然の砕石も同じと伺いました。溶融スラグを作る際の溶融方式はいくつかありますが、どれも同じなのでしょうか?

溶融方式による違い

溶融形式によって、化学成分がどう変わるのかを研究したことがあります。


出典:「ごみ溶融スラグのコンクリート材料への適用に関する研究」(北辻政文)


出典:「ごみ溶融スラグのコンクリート材料への適用に関する研究」(北辻政文)

Table2-2はスラグの化学組成です。シリカ(SiO2)やカルシウムも多いのがわかります。「スラグC」は都市ごみを溶融する際に、塩基度調整材として石灰石(カルシウム)を入れていますのでカルシウム量は34%と多いですね。シリカも35%あります。

溶融方式によって、スラグの組成も変わるのですか?

塩基度調整剤として、石灰石(カルシウム)を入れることがあるので、溶融方式によってスラグの組成が異なることもあります。ごみ由来のカルシウムも多いんですね。例えば、貝殻や魚の骨はカルシウムですし、壁の石膏ボードもカルシウム(CaO)だったりと、身の回りにカルシウムが使われた製品もありますので、これらが混じると、スラグの成分は変わってきます。

それ以外に、溶融方式による違いはありますか?

電気アーク方式は、火花を散らして、アーク(弓)状に電気が流れ灰を溶かすので、灰を電熱であぶります。
プラズマ溶融は、電気アークと基本的なメカニズムは同じなのですが、無酸素(プラズマ)状態にして空気抵抗を抑えることにより、高温雰囲気にして灰を溶かすという方式です。
表面溶融は、バーナーであぶるタイプです。表面が溶けるチーズみたいな感じです。
コークスベット方式は、石炭を使ってごみを高温で溶融させますので、費用はかかりますが、スラグの品質は安定しています。

溶融スラグの製造に関して、気を付けないといけない事は何ですか?

コンクリートの骨材として使う場合には、「金属鉄」と「金属アルミニウム」に気を付けなければいけません。

鉄は錆びてコンクリートの汚れになってしまいますので、溶融する前に灰を磁選機にかけて、しっかり取り除く必要があります。

一方、金属アルミニウムは、両性元素なので酸性やアルカリ性のいずれの環境でもアルミニウムが反応して水素ガスが発生します。コンクリートは強アルカリ性なので、スラグにアルミニウムが入っていると、コンクリートが固まるまでの間に、水素ガスが発生し、コンクリートが膨張して強度が落ちます。

2Al + 10H2O → 2[Al(OH)4(H2O)2] + 3H2

どの溶融炉の形式が良いですか?と相談を受けることがあります。スラグをアスファルト骨材として利用するのであればいずれの方式でも問題ないのですが、前述のとおりコンクリート骨材として使用するのであれば、金属アルミニウムが残る方式はやめた方が良いと思います。

一方、シャフト炉で製造したスラグは、溶鉱炉の精錬技術が使われており、スラグは安定して高品質です。しかし副資材として、コークスや石灰岩(カルシウム)を入れないといけないので、ランニングコストがかかります。

最近の傾向として、人口が多い都市部ではプラズマ灰溶融方式が多いようです。廃棄物を焼却して焼却灰にしますが、焼却した時のエネルギーで発電して、その電気でプラズマ溶融するというパターンです。ただし、焼却灰の発生量が多い自治体で、民間業者に委託するところも増えています。例えば、東京都の23区は焼却のみを行い、焼却灰を民間の溶融炉で溶融しているようです。

溶融炉の形式は一長一短あります。溶融炉の建設には、多額の費用がかかりますので、溶融炉の特徴やランニングコストを考慮して、選定すべきだと考えます。

スラグを活用する必要性

そもそも日本という国は、資源がありません。ですので、年間8憶トンほどの大量の資源を輸入しています。一方輸出量は、わずか1憶5千万トンほどしかありません。
収支バランスが悪く、大量の物が日本に蓄積されます。国内で最初は製品として使われていても、数年後には製品も廃棄物になります。
そうすると、インプットとアウトプットが違いますので、日本において資源を上手く循環させることはかなり困難です。

今までお話しした、ごみを溶融して活用する技術、溶融技術というのは、世界的にみても日本オリジナルと言っていいと思います。
コンクリートをはじめ、建設業で使われている材料は、年間10憶トンくらい使っています。このため、ごみ溶融炉が増え、スラグを建設材料として廃棄物をリサイクル材として利用できればごみ問題は解消できると考えています。

関連して申し上げますと、セメント業界では年間3,000万トンの廃棄物を有効利用しています。この3,000万トンという量は、日本の埋め立て処分場の量とほぼ同じ量です。ですから、セメント屋さんがいなくなると日本のごみ問題は大変なことになるというのが事実です。


ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回は、北辻先生のご経歴などについて、お伺いします。


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