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「REACH」と化学物質管理の潮流(その2)

三井化学株式会社
http://jp.mitsuichem.com/
レスポンシブル・ケア部 主席部員
REACHチームリーダー

荒柴 伸正 様

2007年6月に発効された欧州の化学物質の登録、評価、認可及び制限に関する規則「REACH : Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals」は、化学物質の管理基準として国際的にも産業界に大きな影響をおよぼしています。
前回より化学物質管理のプロフェッショナルである三井化学株式会社の荒柴様に、「REACH」と化学物質管理についてお話をお聞きしています。

今回は、「REACH」について詳しくお話しいただいています

REACHについてもう少し具体的におはなしいただけますか?
例えば「登録」とか「評価」というのは具体的にどんなことをするのでしょうか。

そうですね、先ほど(前回)も申し上げましたが、
REACHとは、
Registration(登録)、
Evaluation(評価)、
Authorisation(認可) and Restriction(制限)、
of Chemicals(化学物質)です。

既存化学物質も含めとにかく事業で使っている物質は全て「登録」する・・と言うのがREACHの特徴です。REACHの「R」-Registration(登録)の部分ですね。

事業で使う全ての化学物質となると、既存物質だけで数万というお話しでしたから数もすごいことになってしまうように思うのですが。

本当に大変な数ですね。REACH以前の化学物質管理制度がある意味破綻した理由もその数の多さからでしたから・・・そのような過去の経験をもとに、REACHは3回のゾーンに区分して登録を行っていきます。

REACHは2007年6月1日に施行され、予備登録が始まって、それから3.5年後の2010年12月1日にまず1回目の登録がありました。
 1回目は、2010年12月1日まで。
 2回目は、2013年6月1日まで。
 3回目は、2018年6月1日まで。
2010年12月には約4,700物質が登録されました。

3回目の2018年6月までに、使用している全ての物質を登録してないといけないと言うことですね。

そうですね、2018年6月を過ぎてしまったら、既存でも新規でも事業で使っている物質の全てが自ら登録したものでないと、ヨーロッパでは事業できなくなります。
Registration(登録)は、事業者がその化学物質で事業する限りは、事業者自身が入手しうる全データを利用して登録するのが事業者の役目であるとされています。
現在は、過渡期にあるため、たとえば予備登録のみの物質と登録済み物質が混在しその取組みを複雑にしています。

「自らが」ということは・・例えば、メタノールなどあちこちで使われている物質であっても、みんながそれぞれ登録しなければならないということでしょうか?

良い質問ですね。
以前は、既存化学物質リストに載っていれば誰もが製造して販売しても良かったのです。REACHでは、例えばヨーロッパ内で同じ物質を10社が製造していた場合、10社が10社とも個別に登録しなければならないのです。

例えば、ヨーロッパに大きな化学会社があります。彼らが登録しているからといって、同じ物質を日本で製造してヨーロッパへ輸出して良いかといえば、駄目なのです。
個有のサプライチェーン上の誰かが責任を持って登録しなければいけない事になっていて、この事を、「No data, no market」といって自らがデータを登録しなければ事業ができないのです。
事業を行うには事業者自らがRegistration(登録)しなければならない仕組みになっているんです。

これが「R」-Registration(登録)の部分の概要ですね。

次は「E」-Evaluation(評価)についてお聞きしたいのですが。

「R」で登録されたデータには2つの種類があります。
ひとつは主としてヒトの健康や環境に対する影響データ。
テクニカルドシエと言っていますが、急性毒性や、低用量でも長期間暴露し続けた場合におこる慢性毒性、環境影響(魚や藻類なども)、それから基本的な物理化学特性など。
もうひとつはリスクアセスメント書です。
そのテクニカルドシエとリスクアセスメント書の二つのデータを我々事業者が登録するわけです。

それら両方のデータが科学的にきっちりできているかどうかを評価するのが「E」-Evaluation(評価)の部分ですね。
Evaluation(評価)は、当局の専門家行います。
「R」-登録 は事業者が責任を持って行う役目、
「E」-評価 は当局が責任を持って行う役目となっています。

事業者がリスクアセスメントしたものについて、さらに科学的に再評価するとなるとEvaluation(評価)は大変な作業になりますね。

そういうことです。ただ、Evaluation(評価)は、全ての物質について行われるのではなく、今までの知見に基づいて怪しそうな物質はわかっていますから、登録物質全体の5%しか見ないことになっています。
我々も登録する時点でEvaluation(評価)にかかりそうなものは見えています。そういうものは今の内から補足説明できるデータを用意しておかなくてはなりません。
まず、書類が揃っているかはREACH IT と言うITシステムを使ってチェックし、分析方法や評価方法などの中身のチェックは専門の審査官が行います。

審査官の見解の違いで評価が変わってしまうことも考えられると思うのですが?

もちろん、評価の観点・方法によって見解の違いも出てきますが。Evaluation(評価)では、「既に存在するあらゆる評価データを使え」と言うのが基本なんです。
例えば、ある評価方法が最適であると考えて結果を出しても、審査官によっては違う見解を示す。(我々もそのような事になりそうなことは予想もついているのですが・・。)そういった部分をEvaluation(評価)ではフォローしていきます。

次は「A」- Authorisation(認可)について、お願いします。

Authorisation(認可)も、当局(欧州化学品庁)の役目です。
登録されたものの中から懸念物質については応分の措置をとることになります。
具体的には発がん性とか、遺伝情報に傷をつける変異原性、生殖毒性などは、高懸念物質と言って、これらは基本的には制限もしくは禁止されます。
Authorisation(認可)は、特に有害性が懸念される物質は認可が得られない限り製造及び使用が禁止というしくみです。
有害性が懸念される物質に対するAuthorisation(認可)のしくみはとても厳しいのです。

「R・E・A・C・H」には出てこないもうひとつの「R」があって、それが「and Restriction(制限)」になります。Authorization and Restriction(認可と制限)ととらえた方が解りやすいかもしれません。
厳しい「A」- Authorisation(認可)の制限をかける一方で、「and Restriction(制限)」は、特定の用途の使用はOKですよという制限を与えて使用していくことを認めているんです。
明らかに毒性などがあることが解っていてもその化学物質が無いとやっていけない分野が必ずありますから、そういったものには、ちゃんと制限条件を加えて使用を認める
・・という事ですね。

REACHはとても厳しいといわれていますが、やはり罰則とかもあるのですか。

そうですね。厳しいというより「厳格」と言ったほうが良いかもしれません。
厳しさでいえば、罰則はあります。ただ、厳しさという側面からですとTSCA(Toxic Substances Control Act: 有害物質規制法(アメリカ))の方が厳しいかもしれません。徹底的に罰金をとられますから。
例えば、TSCAの場合、1ドラム缶で1万ドルの罰金が科せられたとします。1案件でもし10ドラム缶扱っていた場合、10万ドル徴収されるということがある様です。罰金の厳しさからいえば圧倒的にTSCAの方が厳しいです。
REACHの場合は、規制の網のかけ方がとても丁寧で上手くできていて、とても厳格なのですけれども、現実に今のところ強烈な罰金を徴収されたとかは聞き及んでいません。警告程度のことはよくありますが、ベスト-プラクティスをしていれば、最終的には書類の適正化を実施させて通過させているのが現状です。でも、今後どうなるかは分かりません。

アメリカでも域外のものにも法で厳しく対応しているものがありますが、ヨーロッパの場合には、むしろ競争法「独占禁止法」の関係の方が要注意ですね。REACHへの取り組みには、事業者が共同で取り組む仕組みが導入されていて、競争法への配慮は必須です。

冒頭に出てきた、既存物質が10万とか2万物質という差があるのですが、何が根拠になっているのですか?

そうですね。前回出てきましたが、この図ですね。

世界の化学物質管理制度-1

これらは、既存化学物質リストを作った当時、化学的にあり得るものを何でもとにかく登録しておこうとしたために、このような大きな数になってしまったと考えられます。中国で去年施行された「新規化学物質環境管理弁法」も同様です。

何のために、そんなにたくさんの物質が登録されたんですか?

当時は、既存物質に関しては届出が不要で、新規物質に関しては届出が必要、という仕組みでしたので、とにかく、既存物質として登録してしまおうと思ったのでしょう。

ちなみに、REACHの予備登録は14万物質くらいありました。ウサギとかカエルとかもあったそうです(笑)。これは、REACHの仕組みをよくわかっていないままに、とにかく何でもかんでも登録されたからでしょうね。実際の登録数は、最大5万物質くらいだろと言われています。

厳しいけれども、11年くらいの予備期間を設けているんですね。11年って長いと思いますが、そうでもないですか。

全物質を全事業者が登録しなければいけないので、それぐらいの期間が必要になってしまうと思います。逆に言うと、それぐらい重たいデータを作らないといけないのです。
それだけのデータを一気に揃えるのは大変ですから、3回に分けて登録を受け付けているのです。

NEWS

去る、6月27~30日香港で催された「ChemCon Asia 2011」の「REACHセッション」にて荒柴様は講演後、パネラーとしても登壇されました。
その内容などが下記のサイトにて紹介されています。

http://www.chemcon.net/asia/chemcon_daily/chemcon_daily_edition3.pdf

同「CHENICAL WATCH」のGlobal News - Japan にてレポートされています。
(下記サイトの閲覧には登録が必要になります)

http://chemicalwatch.com/7788/japanese-industry-consortium-pilots-reach-or-it-system

ここまでお読みいただきありがとうございます。
この続きは、9月号にてお届けいたします。
次号は、化学物質管理について広い視野からお話しいただいています。

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