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ライフサイクル設計 その5

大阪大学 大学院工学研究科
機械工学専攻
ライフサイクル工学研究室
梅田 靖 教授

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持続可能社会の実現に向けて世界中で様々な研究や取り組みが行われています。
今回のインタビューは、「環境に配慮したものづくり」の研究を設計学、モデリング、メンテナンス工学、知識工学などを基礎技術とした広い視点からの製品のライフサイクルの設計とマネジメントをするための研究をされている大阪大学の梅田靖教授にお話を伺っています。

【その5】 リマニュファクチャリング、WEEE、将来への期待

現在、循環型社会形成推進基本法の見直しが行われいて、その中の、第4次環境基本計画の見直しでは、リデュースとリユースに注目し、リユース市場を拡大していこうということが述べられているのですが、このようなことにはいかがお考えでしょうか?

前回のお話の中にも出てきましたが、環境省のいう「リユース」というのは、どちらかというとリサイクルショップや中古屋さんのような形態に重みがあるような気がしますね。
中古品を仕入れてきて、きれいにして再販するというイメージのようです。
我々が研究している製品組込リユースやリマニュファクチャリングとは少し重心が違うように思います。

リマニュファクチャリングとはどういうことですか?

リマニュファクチャリングというのは、中古部品を新品同様のクオリティに再生させて、販売するということです。
その代表的な会社に、「信越電装」という、世界的なシェアをもっている会社があります。
その会社はオルタネーターやスターターなどの自動車の電装部品のリマニュファクチャリングをしているのですが、回収した中古品を部品レベルまでバラバラにしてクリーニングや交換をし、ほぼ新品のようなクオリティにして品質保証を付けて販売しています。

日本ではこのようなリマニュファクチャリングはマイナーな事業ですが、世界的には普通に行われていますね。
例えば、アメリカでは自動車補修用のリマニュファクチャ部品は広く一般的に使われていて、自動車メーカーのビッグスリーでも、部品在庫は3年程度しか持っていなくて、それ以降は中古部品で手配をしてもらうシステムを取っています。
「Ford Authorized Remanufacturer」という看板を掲げた修理工場が普通にありますね。

国民性も影響しているのでしょうか、日本では交換部品に対しても中古部品はメジャーではなく、日本のメーカーは10年などの長い期間、新品の部品在庫を持ち続けています。
コストの面でも、リサイクルの促進という面からも、選択肢を増やす努力をすべきだと思います。

在庫を減らすということはコストを押さえられるし、リサイクルが促進されているということになりますね。
日本はリマニュファクチャリングがメジャーでないとのことですが、ライフサイクル設計の視点から見て、国際的には日本はどんなレベルなのでしょうか。
例えば、日本のWEEEへの対応はEUのそれと比べると数年遅れているとか、進んでいるというようなことはありますか?

日本の「家電リサイクル法」とEUの「WEEE 」のリサイクルを見て比べると・・・印象としては日本の家電リサイクルの方が高品質ですね。
高品質なのは非常によいことなのですが、日本の方が進んでいるというわけではなくて、基本的な仕組みと考え方に違いがあります。

去年から今年にかけて、ヨーロッパの大学と共同で、薄型テレビのリサイクルをどのようにやっているのか比較研究を行ったのですが、WEEEではリサイクルコストはメーカーが持つ仕組みなので、いかにコスト=人件費をかけないかという考え方が主流です。
薄型テレビの場合、背面の冷陰極管は外してリサイクルしますが、それ以外は基板を取り出す程度で粗破砕・細破砕をして冶金的技術(=スメルティング)によって処理しています。EUはスメルターの技術が高いですね。

一方、日本は家電リサイクル法で料金を取って回収していますから、その料金分のリサイクルコストをかけてもきちんとリサイクルしましょうという考え方です。
手作業で解体して部材に分けて、それぞれの部材ごとにリサイクルプロセスに回していますので、リサイクル率という面では日本の方が高いです。
日本の考え方は廃棄コストをミニマムにするという考え方を取っているのですね。

コストのかけ方が違うということなのですね。
「コスト」は生産、流通・使用、リサイクル、廃棄まで、どのフェーズでも大きな要因ですね。

コストの問題を考える場合、従来のようなモノ作りとリサイクルの仕組み(参照リンク:その3 図-1従来の製造業)では、すでに限界が来ていると思います。

現在もモノ作りは大量生産型で、そこそこの品質のモノをできるだけ安く作るというフェーズから脱却できていませんが、人件費が格段に安い国の製品と、品質においても明確な差が見いだせなくなってきており、国内ではコストを下げる限界を超えて勝負している状態です。
また、使用済み製品の輸出問題のように、DOWAさんのようなリサイクルラーの世界でも同様なことが起こり始めているのではないかと思います。

先ほど、「従来のカタチのリサイクル・リユースありきでスタートしていて、その為にはどうするか‥‥というふうに目的化している」(4回目前半)といわれましたが、たしかに社会システムが家電リサイクルのような形で固定化してしまい、リサイクルすることが目的化してしまったためではないかという気がします。
そこへこれまでお話ししてきた、製品の物理寿命と価値寿命の考え方やリマニュファクチャリングなどを戦略的に取り入れることで、新たな道が開けるのではないかと期待しています。

最後にお聞きしたいのですが、これからの社会への提言や、将来像の夢のようなものはありますか。

最終的には、もの作りが資源消費型の大量生産の社会ではなく、モノ作りをすればするほど持続可能社会に近づいていくというかたちになるのを理想像としています。
そうするとやはり、所有形態の多様化や、お金の払い方などがドラスティックに変わっていって、使いたいときに必要な機能を使って、一番適切なときに循環経路に乗るというカタチになっていって欲しいと思っています。

所有形態の多様化はすでにはじまっていて、カーシェアや残価設定型の車販売、家電のレンタルなどが身近な例です。おそらく、このようなシステムは今後ますます広まってくるのではないでしょうか。

しかし、世界を考えると、資源消費にしても、エネルギーにしても、市場にしても当面マジョリティは中国なのかなと思っています。
中国のような大国が成長の為に大量生産の手法をとり続ける限り、その影響力によって、日本で幾ら高度な循環型社会を構築しても、世界的に循環型社会への変化ができないことになってしまいます。

中国が、先進国が歩んだように大量生産に行き詰まって、そこからの脱却というモチベーションが上がってくるまで変化を待たなければならないのか、それとも、もっと早く循環型社会システムのような考え方が入って、意外と早く変化が起きるのか、が世界の趨勢を決めるのではと思います。

このような世界的な流れもふくめ、私たちが研究している将来シナリオシミュレータやライフサイクル設計が変化の原動力になって、「利益の生まれる循環システム」が具現化し、持続可能社会への変化のタイミングを早めることに貢献していきたいと考えています。

ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回で、梅田先生のインタビューは終了です。
理想とする循環型社会のあり方と共に、そこへ向かって進めるべき戦略手法まで研究されていることに驚きを感じました。数多くの企業が先生の研究に興味をもってもらえることを期待致しております。

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