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地質学の立場から見た土壌と土壌汚染―その5

独立行政法人 産業総合研究所
地圏資源環境研究部門 副研究部門長
東北大学大学院環境科学研究科 連携講座教授
工学博士 駒井 武 様

工学博士 駒井 武先生にお話しをお聞きしました。
【産総研】独立行政法人 産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門TOPページへ

駒井先生は、地質の専門であり、その中でも地下水、土壌の汚染リスクの研究に携わっていらっしゃる、地質と土壌研究のプロフェッショナルです。
今回は、最終回として、
地圏資源環境研究部門と先生のお仕事 についてお話しをお聞きしています。

「先回のインタビュー記事(その-4)」でご紹介しました
「地圏環境リスク評価システムGERAS-3」が以下のページで紹介されています。
先回記事と合わせてごらんください。
地圏環境リスク評価システムGERAS-3 の公開

これまで、土壌のことについてお聞きしてきましたが、先生のいらっしゃる産業総合研究所の地圏資源環境部門としてはどのようなことをしておられるんでしょうか?

この部門では、土壌汚染だけでなくCO2の地中処理、核廃棄物の地層処分が中心のテーマです。
それから、この研究所がもともと得意とするのは「地下水」、「土壌」、「物理探査」ですね。
それから土壌と関連が深いですが「地下微生物」の研究もしています。汚染物質を微生物で浄化するというような先端技術も研究しています。

また、本年4月地圏環境リスク研究グループという新組織を立ち上げました。ここでは、CO2地中貯留から核廃棄物の地層処分、メタンハイドレートの開発に関係するリスクを全て扱ってしまおうと考えています。
【産総研】地圏環境リスク研究グループを紹介しています
 http://unit.aist.go.jp/georesenv/georisk/

地質だけでなくもっと広い範囲を扱うという意味では地質汚染-医療地質-社会研究学会の会長もしています。
【産総研】GREEN NEWS No.22 医療と地質 −新たな研究領域の模索−
 http://unit.aist.go.jp/georesenv/result/green-news/gn22/22-p1.pdf

医療地質というのは初めて聞く言葉ですが・・

日本ではココだけですね。医療地質というのは、もともと地質の持っている元素がどのように身体に影響を及ぼすかという問題を扱います。セレンなどは毒性がありますが、一方では人にとって必須元素でもあり、これが人にどういう良い影響を及ぼしているかなどを研究します。

「医学」ということはお医者さんもいらっしゃるのですか?

はい、いらっしゃいます。「法医学」の方もいらっしゃいます。法医学では死体があったとするとそこに付着していた土を分析し、どこの土か調べるというような関係がありますね。

ヨーロッパでは有害物質の直接摂取という概念から「含有量」を基準にしているといわれましたが、土壌の直接摂取というのはどういうことですか?

「直接摂取」というのは、土壌の摂食を意味しますが、その土壌でとれた野菜や家畜を食べることによる摂取を含みます。ヨーロッパに限らず世界のほとんどがこの直接摂取を元にした含有量が基準になっていて、「地下水による溶出量」を基準にしている日本が特殊と言えますね。これは日本人が井戸水を多量に使用するためでしょう。

それから、溶出量の基準は、以前からある環境省の「環境基本法」の「土壌環境基準」で決められていて、含有量は規定していません。その基準が元になっていますね。

土壌汚染対策法の背景になっている環境法令があるのですね。

本来、環境全てに関わる法律として、1960年代に制定された「公害対策基本法」に代わって平成5年に制定された「環境基本法」が大枠としてあります。
「環境基本法」では望ましい目標基準として「環境基準」が定められています。
「環境基準」で定められている基準値は目標値であって、「この数値を満たしていなくてはならない」という数値ではありません。しかし、その様に思われている方が多いように感じます。そのために過剰な反応がおこり、全て場外搬出や住民の反対運動などにつながっているのではないでしょうか。
その「環境基本法」のもとに「水質汚濁防止法」や「大気汚染防止法」、「土壌汚染対策法」などが制定されています。
そして、土壌汚染対策法に関わらない土地の土壌も「環境基本法」の「土壌環境基準」の対象であるわけです。
そのように考えると、土壌に関わる法律も「土壌汚染対策法」以前に、環境基本法、水質汚濁防止法、廃棄物処理法、さらに循環型社会形成推進基本法、などが場合によって関わってきますね。関係のある法律が複数あり複雑ですので、一般の方では混乱してしまいますね。
そもそも、土壌汚染対策法で、「基準値」については書かれているのですが、「土壌」とは何なのかの定義が書かれてないですね。その点も、法律を読み込んでいく中で混乱する一因ではないかとも思います。

ちなみに日本では井戸水を利用しているとの事でしたが、井戸水の利用は自由なのですか?

井戸は個人所有なので、自分の土地であれば小規模の地下水利用に限り自由に掘って使ってかまわないです。「地盤沈下」の法は絡んできますが、基本自由なのですね。

では、掘って石油が出たとなっても私物ですか(笑)

石油だと「鉱区」を設定しないといけません。個人で「鉱区」の指定はとれますが、「鉱区」に対する鉱業関連法が絡んできます。ちょっと、ややこしいです(笑)

温泉はどうなのですか?

温泉を掘り当てても、最近は必ずしも嬉しくないこともあります。効能が高い温泉であっても環境基準を超えた汚染物質が含まれるケースがあるからです。

5回シリーズでお届けしました「地質学の立場から見た土壌と土壌汚染」
今回で終了です。専門分野のさらに深いお話も大変面白そうでした。

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