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地質学の立場から見た土壌と土壌汚染―その1

独立行政法人 産業総合研究所
地圏資源環境研究部門 副研究部門長
東北大学大学院環境科学研究科 連携講座教授
工学博士 駒井 武 様

「その道の人に聞く」創刊号は、工学博士 駒井 武先生にお話しをお聞きしました。
【産総研】独立行政法人 産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門TOPページへ

駒井先生は、地質の専門であり、その中でも地下水、土壌の汚染リスクの研究に携わっていらっしゃる、地質と土壌研究のプロフェッショナルです。
現在、日本全国の土壌のデータベースの製作をされています。また、「GERAS」というリスク評価システムの開発をすすめられておられます。
今回は、茨城県つくば市にある産業技術総合研究所におじゃまし、お話しをお聞きしました。

初めまして、まずお話をお聞きするに当たり、土壌を理解するのにどこから入ったらいいのでしょう?例えば地球レベルからとか、分子レベルからとか・・。

まず、産業総合研究所(以下、産総研)の紹介をさせていただきます。
産総研は経済産業省の傘下の研究所で、その中で私たちは地質や資源を中心に扱っています。
私の所属している地圏資源研究部門は、いわゆる地質屋の部門で、地質の調査、資源開発といった広い領域の環境を捉えるのが基本ですね。地表から深さ1万m位までを扱っています。

1万メートルですか!深いですね

1万メートルでも、地球の表面のほんの薄皮部分ですよ(笑)。
地質を扱っている人は、どちらかというと表面より深い方に興味がある人間の方が多いですね。
資源で言うと石油は1,000~3,000m、金とかダイヤだと2,000~3,000m位にありますし、地震、活断層、火山などの研究はさらに深いところを対象にしています。

では、先生が薄皮の薄皮である土壌を扱われているのは、どういういきさつですか?

私が土壌汚染と関係ができたのは、地下水の研究がきっかけです。
欧州を含めた世界のほとんどの国は、汚染土壌の直接摂取を問題にしていて、土壌中の汚染物質の「含有量」を基準にしていますが、日本の法律は世界的に見て特殊で、法律体系がそもそも水をベースにしているものが多く、土壌環境基準は「溶出量」のみです。水質の中でも、地下水の汚染は飲料水など様々な環境汚染につながるので重要です。
環境基準もまず10数年前に地下水汚染を防止する観点で溶出量の基準ができ、その後2003年に土壌汚染対策法によって含有量の基準ができたという流れです。日本では土壌の基準が溶出量と含有量の2つあるので、現場の方にとっては対応が難しくて、一つにまとめてくれなんて言う人もいますね(笑)。

確かに現場としては「含有量」と「溶出量」の両方を同時に考えなくてはならないので、難しくなっていると感じますね。

土壌汚染の問題は、日本人の場合は、「水質」に対してセンシティブなので、やはり地下水から捉えた方がいいのではと思います。
ただ一方で、現代の都市部はほとんど地下水を飲用にしないので、その場合は土壌の直接接取を基準にした方がいいのだと思います。地方では地下水を飲用にしますので、できれば、地域によって含有量であったり溶出量であったりと、地域ごとの対応があったほうがいいのではと思います。

それでは地質のお話をお伺いできますか。

私たちは、地質、地下水、土壌をひっくるめて「地圏」という言葉を使っています。「地圏」というのは耳慣れないかも知れませんが、大気圏、水圏、と同じ意味で「地圏」と言っています。
いろいろな観点の方がいると思いますが、土壌の汚染を考える際に私としては「地質汚染」と呼びたいですね。土壌汚染の中には水質汚染、土壌汚染、場合によっては岩盤の汚染、岩盤を掘削して出た岩石の問題など、それらをすべて含めて考えたいですね。
さらにおおきく考えると、大気も含めて考えたい・・例えば黄砂などのように大気中を運ばれてきて堆積・沈着量も結構大量にあり土壌に影響しています。このようにできるだけ広く捉えることが重要ではないかと思います。
・・・それが「地圏」というとらえ方です。

私たちは土壌を見るときはまずその形成過程で捉えます。土壌そのものがどういうふうに形成されたかを考えると、森林の落ち葉がバクテリアによって分解された有機物と、先ほど申し上げた黄砂や火山灰のように大気から運ばれ堆積した成分や、水によって山から運ばれて堆積した成分が絡み合って、土壌が形成されています。
日本も国内の土壌も地域によってすごく特徴があります、直感的に色が違う、掘ってみると硬さが違う、湾岸近くでは砂であって明らかに有機物が少ない、内陸では有機物が多い・・などです。
色では北海道の土は灰色が多く、関東は黄色のローム、関西は真砂土(マサツチ)、四国の土も白く、九州南部はシラスなどとそれぞれ違います。
例えば研究所のあるこのあたりは真っ黒い土「クロボク」と呼ばれる土ですね、生成過程が複雑なのですが火山灰でありながら有機物を蓄積する肥沃な土壌です。
この様な土壌の特徴の違いは、土壌の基本となっている岩石の違いからきています。また、表層の土壌は広葉樹林、針葉樹林など植生の違いで土壌に含まれる腐食成分が大きく違ってきます。
そのような土壌の研究だけでも結構面白い研究分野なのです。

一度聞きたかった質問なのですが、「砂」と「土」の違いって何ですか?

そうですね、明確な定義がないので、学会によって違うと思います。例えば農芸化学の学会と地盤工学の学会では大きく違います。
一般的にその尺度は、まずは有機物の量、それから粒度分布と粘土成分の違いになると思います。地盤工学では「砂」と「土」は粒度分布で定義しています。農業分野だとガラッと変わって植物が育つかどうかが問題ですから有機物質の量からみていますし、私たち地質汚染の分野では、いかに土壌が形成され、産業活動など人為的行為によりどのように変化したかを見ています。

「自然汚染」といわれるものについてお伺いしたいのですが。

自然界には普通に土壌汚染対策法の基準値を超える濃度の汚染物質が含まれている場所があります。それは、形成過程の元となる最初の岩石、地質に由来しています。顕著な例としては、鉱山の周辺等は元々ヒ素やカドミウム等の濃度が(土壌汚染対策法の溶出量基準よりも)高い場合があります。
そういった情報ですら日本でまとめられていなかったので、そういう情報を地質、土壌の調査をしてまとめていくのも私たちの研究所の大切な仕事です。
現在進めている仕事に、全国の「表層土壌の基本図」を製作しています。

こういう物を出すと公の情報として利用されていくと思われます。現在宮城県と鳥取県しかまとまっていませんが、全国を網羅すべく現在も調査を進めています。

ここまでお読み頂きありがとうございます。
この続きは次号のジャーナルで公開致します。

次回の主な内容は
・「表層土壌の基本図」メイキング物語と活用事例
・「土壌汚染」と「リスク管理」の考え方
次々回の主な内容は
・「土壌」に関わる環境的側面と経済的側面
・「土壌」と「土地利用」の考え方

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