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EUのCE(Circular Economy)政策 その7
〜循環経済政策(CE)に至る経緯〜

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
持続可能な消費と生産領域
主任研究員
粟生木 千佳(あおき ちか)様

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

今回は2015年に欧州で発表され、海外で注目されている資源効率(Resource Efficiency)や循環経済(Circular economy:CE)に関する研究をされているIGES(Institute for Global Environmental Strategies)の主任研究員 粟生木 千佳(あおき ちか)様に「EUのCE(Circular Economy)政策」について、お伺いしました。

【その7】循環経済政策に至る経緯

これまで6回にわたり、循環経済(Circular economy:CE)政策パッケージ(行動計画)についてご説明頂きました。
今回は、EUが循環経済(Circular economy:CE)という政策に至る経緯について、教えて頂きます。

■EUの資源効率政策の沿革

EUのREやCE関連政策文書には「現状の資源使用は地球の資源再生能力を超えている」「現状の資源使用のパターンを使い続けることはもはや選択肢にはない」「資源が豊富で安いという時代ではない」といったような記述が見られ、資源利用に関する高い意識があることがわかります。
これから世界人口が増加し、途上国の経済が拡大していく中、資源需要は今後も増加し続けると考えられます。そのため、資源価格も、変動はあるものの、上昇していくと推測されます。
そんな中、欧州の経済活動を継続するために、資源をどのように持続可能に利用していくか、ということに対する危機意識があるのかと思います。

環境影響の軽減とともに、そのような資源に対する危機意識がベースにあって、2000年代前半から、「持続可能な天然資源管理」を端緒とした資源効率とか循環経済に関する検討がはじまりました。

1)天然資源の持続可能な利用に関する戦略

資源効率の向上という議論が具体化してきた時期は、2005年の「天然資源の持続可能な利用に関する戦略(Thematic Strategy on the sustainable use of natural resources)」頃からと考えています。
まだ資源効率という用語は使われず、「天然資源の持続可能な使用」という言い方でした。どちらかというと環境影響を低減させるかに焦点が絞られていて、「資源使用に伴う環境影響を削減し経済成長と環境影響のデカップリング(切り離し)を目指しましょう」という内容でした。

【参考資料】
経済産業省ホームページ:3R政策「調査資料」 国際循環システム対策費-諸外国の資源循環政策に関する基礎調査(2006.3)
外務省調査月報(2005):欧州連合の「リスボン戦略」─EUの包括的構造改革と経済成長的側面について─
EU統合ダイナミズムの中のリスボン戦略 ―統合の社会的側面の観点から―

天然資源を持続的に利用するために、「天然」資源を上手に使いましょう、資源を使い捨てずに、リサイクルして、「天然」資源の消費量を押さえましょうというような事でしょうか?

この時点では、資源の使い捨てやリサイクルといった具体的行動まで言及されていなかったと思います。どちらかといえば、資源の使用による環境影響の認識や天然資源の持続可能な使用の重要性の理解。また、それを詳しく分析するための知識基盤(評価方法の構築や、IRP(国際資源パネル)の設立など)の整備について示されていました。

2)欧州2020(Europe2020)

2008年にリーマンショックによって欧州経済も大きく打撃を受けた後、2010年までの欧州の経済・雇用戦略を担っていた「リスボン戦略」の期間が終了し、後継として2020年までの経済・雇用戦略を担う「欧州2020(Europe 2020)」が発表されました。

発効 名称 ターゲット 目標
2005年 天然資源の持続可能な利用に関する戦略 成長経済における資源使用に伴う環境影響の低減
2010年 欧州2020 2020年 EU経済の競争力強化、資源供給の安定、気候変動、環境影響低減
2011年 資源効率的な欧州(RE政策) 2020年
2015年 循環経済政策パッケージ(行動計画) 5年ごとに
進捗報告
製品・資源価値の長寿命化、廃棄物最小化、低炭素・資源効率的経済の開発と競争優位化、資源価格変動への対応、ビジネス機会の創出

欧州2020(Europe 2020)には、雇用確保、研究開発投資、気候変動とエネルギーの持続性確保、教育普及、貧困撲滅などが含まれています。これらの戦略目標を達成するための具体的な手段である7つの旗艦イニシアチブの1つに、「資源効率的な欧州」(A resource-efficient Europe − Flagship initiative of the Europe 2020)があります。これが、RE(Resource Efficiency)が前面にでた政策のはじめかと思います。

【参考資料】
JETROホームページ:欧州2020(EUの2020年までの戦略)の概要

3)資源効率的な欧州(RE政策)

資源効率的な欧州では、EUが経済成長をしていくために、資源の効率的な利用と低炭素社会の実現を目指しましょうという話をしています。

経済成長のために、「低炭素社会の実現を目指す」のですか?

そうですね。リーマンショック後に発表された経済・雇用戦略の一部ということもあって、経済成長や雇用の面がよくフォーカスされています。
推測ですが、新たな機会を創出すると書かれていることからも、低炭素社会や資源効率的経済の実現を他に先んじて達成することで比較優位を得るということなのかもしれません。

ただ、バックグラウンドには、先ほどお話しした人口増加であるとか新興国などの経済的台頭に伴う資源需要の高まり、資源価格の高騰などを踏まえ、現行の資源・エネルギーの使い方はもはや不可能という認識、将来的な資源の利用可能性やプラネタリー・バウンダリーへの危機感もあるのかと思います。

「資源効率的な欧州」は非常に範囲が広く、生物多様性や海洋資源、さらに土地や、食糧、建物、モビリティといった都市のシステムも含まれています。

「資源」がキーワードとなる政策に、土地や都市交通までも包括されているんですね。

そこが非常に特徴的で、且つそれがゆえに包括的な欧州の姿を描くことが出来ます。
EUは加盟国が多いので、各国の課題も個々に違いますから、まず政策文書において目指すべきビジョンを先に提示するとういう傾向がみられます。ですので、政策に中身が無いという評価をされるかもしれないですし、ビジョンの実現まで追いついていないと思われることは当然あります。
ただ、提示したビジョンに向かって進むべき道筋や取組を、ステップバイステップで議論し実施するというプロセスが非常にわかりやすく共通認識を高めやすいのではと思います。

また、「資源効率的な欧州」は、経済・雇用戦略の「欧州2020」の一部でもありますし、EU加盟国各国の人の理解を得るためにも、資源効率的なアプローチが社会経済の課題も同時に解決する姿を提示するということも大事な要素なのだと思います。

欧州で環境政策と経済・社会政策の統合が具体的に進みつつあることの事例かと思います。実際、持続可能な社会の実現に向け、環境政策と社会・経済政策を別々に検討するのではなく、統合的に検討していくことが今後国際的にも主流化する議論となりつつあると個人的にも思っています。

4)CE:循環経済政策パッケージ
(Closing the loop-An EU action plan for the Circular Economy)

そして、2015年にCE政策パッケージ(行動計画)が発表されたのですが、資源効率的な欧州から変わったのでしょうか?それとも、バージョンアップした感じでしょうか?

資源効率的な欧州から CE政策パッケージ(行動計画)に変わったと言われる方もいますが、変わったのではなくて、あくまでもRE政策を実現するための手段の1つとして循環経済(CE)が提唱されたと考えています。「資源効率的な欧州ロードマップ」においても、「持続可能な消費と生産」や「廃棄物を資源へ転換する」という項目が一項目として上げられています。

CE政策パッケージ(行動計画)においても、CEへの移行は、EUが持続可能・低炭素・資源効率的かつ競争力の高い経済になるための不可欠な要素だとされており、資源効率的で持続可能な社会を実現するためのアプローチの1つと捉えていただいてかまわないのではと思います。

「資源効率的な欧州」も「CE政策パッケージ(行動計画)」も“コミュニケーション(政策文書)”であり、それ自体が義務ではありません。こういう世界・社会を実現するために、例えば、循環経済(CE)の構築を目指して、このような行動・アクションをしていきましょうと訴えかけ、かつ具体的な計画を提示した文書といえるかと思います。

そういった訴えを受けて、地力のある国(ドイツ、オランダ、オーストリア、フィンランド、スウェーデン等)は「資源効率的な欧州」や「CE政策パッケージ(行動計画)」を受けてそれぞれRE戦略やCE戦略などを出してきています。しかし、EU各国は、産業構造も廃棄物の処理状況も国によって大きく異なります。そうでない、たとえば比較的経済力が小さい欧州各国がすぐ追い付けるわけではありません。

以前の回でも少し触れましたが、埋め立てに依存している国もあります。国によるレベルの差が激しいので、CE政策パッケージ(行動計画)に示された行動の実施を通じて、EU全体として徐々にCEの体制を整えていくのではないかなと思います。

資源を効率的に使っていきましょうというRE政策資源効率的な欧州がまずあって、そのために資源循環ループをクローズさせて、循環経済を構築しようというCE政策パッケージ(行動計画)がある、ということですか。

そのように理解しています。欧州の廃棄物ヒエラルキーの1番目が発生抑制(プリベンション)である事からもわかるように、いかに天然資源(バージン資源・一次資源)を使わず、かつ”WASTE”を発生させずに経済活動ができるかという点に重点を置いているのではないかと思っています。

出典:欧州委員会ホームページ「廃棄物に関する指令 2008/98/EC(廃棄物枠組み指令)」

さらにCE政策パッケージ(行動計画)では、バージン材(一次資源)の使用をできるだけ減らすために、廃棄物を資源(二次資源)としてとらえて、できる限り循環させましょう。それ以前に、廃棄物を発生させないような再使用・修理・修復・製品長寿命化(およびそれらの高付加価値化)そのための製品デザインや生産プロセスの改善などを進め、持続可能な社会に社会システム全体を転換させましょうという提案をしています。


ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回は、欧州と日本の政策体系の違いについてお伺いします。


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